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青山 佾(明治大学名誉教授)

政策の宝庫『特別区の統計』

明治大学名誉教授、都市調査会代表
青山 佾

青山佾

私は毎年、年度が変わると区政会館の4階を訪れる。『特別区の統計』を購入するためである。この統計は政策の宝庫であり、これを分析せずして特別区を語ることはできない。

東京都都市計画審議会で議論するときは、各区に占める道路面積の比率を見ると各区の特色がよくわかる。

道路面積率が極端に低いのは大田区、中野区、杉並区だが、大田区は広大な羽田空港をかかえているので、その面積を分母から差し引くと中位に上がる。各区の特性を理解して分析しないと評価を間違える。公園面積率では、中野区と豊島区が極端に低い。防災都市づくりの議論をするときはここから始めることになる。

東京都社会福祉協議会の会長という立場からこの統計を見ると、生活保護率が高い区は3.73%から低い区は0.75%まで大きな差がある。私は荒川区の教育委員を長く務めさせて頂いたので知っているが、就学援助率ではもっと大きな差があり、この差は各区の様々な行政分野に影響する。

東京都農業会議の会長という立場からいうと、この統計書に農地と農家、そして生産緑地の統計を掲載してほしいと願っている。この10年以上、東京の青果の生産額は伸びており、これからは都市農業の時代がくる。都市計画法の改正により田園住居地域の指定ができることになったし、生産緑地の下限面積も引き下げられている。

区部の土地利用の詳細については東京都の都市整備局が『東京の土地利用(区部)』という統計を発行していて、宅地、公園、道路・鉄道、河川などの使途が町丁目別に表現されて、地域別の特徴がよくわかる。

私の世代は都庁職員として極端な住宅不足時代に民間マンションと競争しながら都市施設をつくるための用地買収に努めたので、宅地と公共施設用地の割合の変遷に関心が高い。

今、住宅不足時代は終焉し、都市住民のための公園や福祉施設、成熟社会に相応しい芸術・文化・スポーツ施設の整備に土地利用の重点が移っていく時代に、広大な公共施設の跡地にオフィスやマンションを建てようとするプランがあると本能的な違和感をもつ。東京都の都市整備局がつくっている『東京の土地』によると昭和35年に東京の宅地は62.8%だったが平成29年には94.9%に増えている。これ以上宅地を増やさないで公共用地を増やすべきだという主張をするのに統計は有力な武器となる。

『特別区の統計』には23特別区と全国の政令指定都市を比較する統計も載っている。東京都人事委員会の委員長という立場から見ると、人口1万人当たり職員数が23区はすべての政令指定都市より少なくて、これは国との税財政論争に役立つ。

統計は時代が変わっても変えないほうがいいが、その時々のトピックみたいな特集を組んで頂くと『特別区の統計』もさらに多くの人に親しまれ、特別区の発信力を高めるのではないか。調査研究機構の発足にあたってそんなことを考えた。